長い間、実務的な読書のウェイトが大きくて
単純に楽しむ読書、表現を味わう読書から遠ざかっています。
自分にとっての読書は長い間、
「よりよく生きるため」「仕事がうまくいくように」が第一の目的になっており
雑誌や漫画を除けば成果を求めるものが多くを占めていました。
そういう読書もいいのですが
表現を味わう読書、という言い方でふと思い出すのは
20代前半によく読んだ、
開高健(かいこう たけし)氏の作品でした。
そのころはまだ役所勤めで
その後の人生に比べると、のんびりしていた時期でした。
氏の代表作品「輝ける闇」は
ベトナム戦争で従軍した記者の目で語られる小説で
湿気でべたつくような読後感が思い出されます。
「悠々として急げ」なんて表現も開高氏独特のものでした。
氏の作品はほとんど読んだと記憶していますが
それほどこの作家の表現にハマったのでしょう。
濃厚で温度や湿度を感じるものでした。
しかしながら、引越しのたびに持ってきていた古い文庫本の束は
忙しさの中で顧みられることもなく
ある時期にほとんどを処分してしまい、長く忘れていました。
ちょっと懐かしくなって検索してみると、なんと
「開高 健 電子全集 闇三部作」なるものが出ているではないですか。
いや、全作品も電子化されてる。おお。
解説には
「開高文学の最高傑作『輝ける闇』、『夏の闇』、『花終わる闇』は
総称して『漂えど沈まず』と冠されるはずであった・・。 ・・・」
とある。
そうだったのか。その総称、めっちゃ合ってる。と独り言。
懐かしい書き出しを読んだだけで、
当時住んでいた独身寮の個室の暑苦しさまでが蘇ってきました。
長い間、読書の一番美味しいところを放棄していたかもと
軽い後悔の念を覚えつつ、
懐かしい旧友にあったような喜びを感じ
さっそく「闇三部作」にズブズブと浸かり始めている休日であります。